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東京地方裁判所 平成9年(ワ)8839号 判決 1999年5月10日

福岡県粕屋郡篠栗町大字和田一〇三四番地の四

原告

協立エアテック株式会社

右代表者代表取締役

久野隆夫

右訴訟代理人弁護士

永野周志

右補佐人弁理士

加藤久

東京都渋谷区渋谷三丁目一〇番一四号

被告

エアコンスター株式会社

右代表者代表取締役

村上利行

右訴訟代理人弁護士

牛久保秀樹

南惟孝

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙被告物件目録記載の各物件を販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金二六五六万九七六〇円及びこれに対する平成一〇年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、別紙被告物件目録記載の各物件の形態が、原告が製造、販売する製品の形態と同一であり、被告が右物件を販売する行為は、不正競争防止法二条一項一号及び三号の定める不正競争行為に該当すると主張して、原告が被告に対し、右販売の差止め及び損害賠償の支払を請求した事件である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。)

1  原告は、平成九年三月より、建物室内の天井裏内部に設置され、建物室内の空気調整・換気を行う装置(品名・型式「VAV・CAV・ファス一体型FP形」、以下「原告製品」という。)を空調ユニットシステムとして、製造販売している。原告製品は、大別して、以下の四つの装置により構成されている。(甲一、弁論の全趣旨)

<1> 空調用換気箱(以下「ミキシングチャンバー」という。)

<2> 可変定風量装置(以下「VAV」という。)

<3> 定風量装置(以下「CAV」という。)

<4> 折り曲げ可能な導管(以下「フレキシブルダクト」という。)

原告製品には、ミキシングチャンバーの側面に接続されるフレキシブルダクトの数により七タイプがあり、フレキシブルダクト合計四本ないし一〇本が接続されるタイプの型式をF4ないしF10としている。(甲四、弁論の全趣旨)

このうち、フレキシブルダクトが、合計六本、八本、一〇本接続されるタイプ(以下、順に「原告製品4」、「原告製品5」、「原告製品6」という。)の形状は、順に別紙原告物件目録4、5、6記載のとおりであり、それぞれの本体部分(本体部分は、前記<1>、<2>及び<3>の各装置から構成される。以下同じ。)の形状は、順に別紙原告物件目録1、2、3記載のとおりである。(甲四、弁論の全趣旨)

2  原告製品の形態上の特徴

原告製品の形態上の特徴は次のとおりである(甲一)。

(一) 原告製品の本体部分

<1> ミキシングチャンバーは直方体の箱状であること

<2> ミキシングチャンバーの背面に、VAVとCAVとがそれぞれ接続される二つの開口部が並行状態に設けられていること(以下、VAV開口部とCAV開口部が設けられているミキシングチャンバーの側面を「背面」といい、ミキシングチャンバーの背面に対面する側面を「正面」という。)

<3> ミキシングチャンバーのVAV及びCAV開口部に、VAVとCAVがそれぞれ接続されていること

<4> ミキシングチャンバーの正面に、フレキシブルダクトを接続することが可能な開口部(以下「増設用開口部」という。)が設けられていること(なお、フレキシブルダクトの接続が不必要であるときは蓋で覆われている。)

<5> ミキシングチャンバーの左側面及び右側面に、フレキシブルダクトを接続する開口部が合計六個、八個又は一〇個設けられていること

(二) 原告製品のフレキシブルダクト

折り曲げ状態にしたがって、穏やかに曲がった形状であること

(三) 原告製品の全体形状

直方体の箱状のミキシングチャンバーの左側面及び右側面から、複数のフレキシブルダクトが、ミキシングチャンバーの中心点より左及び右方向の外側に向かって穏やかに曲がった状態で広がっており、蟹の形状をしていること

3  被告の行為

被告は、東京都港区の品川駅東口開発事業における品川インターシティA棟建設に際して、空調設備会社から、別紙被告物件目録4ないし6記載の空調装置(以下、順に「被告製品4」ないし「被告製品6」といい、あわせて「被告製品」という。その本体部分は、別紙被告物件目録1ないし3記載ののとおりである。)を受注し、平成九年八月から同年一二月末までの間に、納品を完了した。

被告製品は、大別して、以下の四つの装置により構成されている。

<1> ミキシングチャンバー

<2> VAV

<3> CAV

<4> フレキシブルダクト

4  被告製品の形態上の特徴

被告製品の形態上の特徴は次のとおりである。

(一) 被告製品の本体部分

<1> ミキシングチャンバーは直方体の箱状であること

<2> ミキシングチャンバーの背面に、VAV開口部とCAV開口部が並行状態に設けられていること

<3> ミキシングチャンバーのVAV及びCAV開口部に、VAVとCAVがそれぞれ接続されていること

<4> ミキシングチャンバーの正面に、増設用開口部が設けられていること

<5> ミキシングチャンバーの左側面及び右側面に、フレキシブルダクトを接続する開口部が合計六個、八個又は一〇個設けられていること

(二) 被告製品のフレキシブルダクト

折り曲げ状態にしたがって、穏やかに曲がった形状であること

(三) 被告製品の全体形状

直方体の箱状のミキシングチャンバーの左側面及び右側面から、複数のフレキシブルダクトが、ミキシングチャンバーの中心点より左及び右方向の外側に向かって穏やかに曲がった状態で広がっており、フレキシブルダクトの広がり状態は蟹型広がりであること

二  争点

1  原告製品の形態は、周知な商品表示か。

(原告の主張)

原告製品は、原告が平成三年末に開発した商品名を「FASU」とする空調ユニットシステムを基礎とするものである。

まず、「FASU」は、<1>風量バランス調整機熊と<2>調和空気の分配・送風機能を有する部分である「チャンバー」及び「フレキシブルダクト」の仕様を標準化した上、この二種の装置をユニット化することにより、「チャンバー」及び「フレキシブルダクト」を一体的に設置するだけで空調製品を完成させることができるという、従来の空調製品にはない特徴を備えたものである。「FASU」は、設置個所毎に、異なる風量バランス決定要因に適合する設計を行ったり、設置後に再度の風量バランス調整を行う必要がないなどの経済的効用により、工期短縮、コスト削減ならびに省力化についての需要者の選好を満足するものであることから、建設業界と空調業界において高く評価され、需要者において広く認識されている。「FASU」は、各フレキシブルダクトがチャンバーの左側面ならびに右側面からチャンバーの中心点より左右方向の外側に向かって緩やかに曲がった形態をしている。このような「FASU」の形態は、「蛸」若しくは「蛸足」を連想させ、需要者は「FASU」という商品名だけでなく、「タコ」、「タコ足」、「タコ足ダクト」、「タコ足集合チャンバー」、「タコアシユニット」、「タコ足くん」、「オクトパス」等の蛸にちなむ称呼を用いて「FASU」を識別している。「FASU」の形態は人目をひく、極めて強い識別力を持っており、商品表示として業界において周知である。

これに姑して、原告製品は、「FASU」が有する風量バランス機能及び調和空気の分配・送風機能を損なうことなく、温度コントロールを実現するために、<1>「FASU」のチャンバーの内部に空気を混合させるためのミキシング構造を設け、<2>「FASU」のチャンバーにVAVとCAVを接続したものである。原告製品は、「FASU」の特異的な形態上の特徴を有しており、商品表示として周知である。

(被告の反論)

品川駅東口開発事業における品川インターシティA棟、B棟、C棟の設計会社及び空調設備会社は、原告、被告に共通であり、A棟は被告が受注し、B棟及びC棟は原告が受注した。被告製品本体部分の形状、増設用開口部の有無、フレキシブルダクト開口部の数、フレキシブルダクトの形状は、右設計会社等からの仕様、施工図面に基づいたものである。原告製品及び被告製品は、右設計会社から原告及び被告に提供された仕様、資料に基づいて製造すると、必然的に原告が原告製品の形態上の特徴と主張する形態と同様のものになる。

原告の主張に係る原告製品の特徴である、チャンバーが直方体の箱型になる点は通常のことであり、また、フレキシブルダクトの本数は、注文者の依頼により決まることであり、ダクトがフレキシブルである点は、狭い天井を通るために、他の空調用ダクトにおいて通常利用されていることであって、特有のものではない。したがって、これらの形態は、機能上当然の結果であり、同種の商品が通常有する形態であって、商品の出所を示すような商品の形態ではない。

被告も、昭和六二年ころから、VAVとCAVをそれぞれ単体の製品として販売してきたが、平成三、四年ころから、冷温風を混合するミキシングチャンバーに冷温風を送風するVAVとCAVが入口として二本付けられ、混合空気を排出する出口が一本付けられた空調製品を製造している。また、平成七年当時、混合空気の出口が六本ないしは七本とする製品が、他社からも販売されていた。

よって、原告製品の形態は商品表示性を有しない。

2  被告製品の形態は、原告製品の形態と類似し、原告製品と混同を生じさせるか(不正競争防止法二条一項一号)。また、被告製品の形態は、原告製品の形態を模倣したものであるか(同法二条一項三号)。

(原告の主張)

被告製品4ないし6の形態は、それぞれ原告製品4ないし6の形態と同一である。

被告製品と原告製品の各ミキシングチャンバー部分は、<1>縦、横及び高さの寸法、<2>VAV及びCAV開口部の形状、口径、取付位置及び間隔、<3>フレキシブルダクト開口部の形状、口径、取付位置及び間隔、<4>吊り金具の間隔が、同一である。被告製品と原告製品の全体形状も同一である。また、被告製品と被告製品の各本体部分は、増設用開口部及びフレキシブルダクト開口部が設けられていること、並びにその個数が同一である。

「FASU」の利便性や経済性、効率性は業界において高く評価されており、平成九年末までに大量の「FASU」が販売されている一方、「FASU」と形態を同じくする空調ユニットシステムが販売されたことはない。また、被告製品の販売地域は原告製品の販売地域と競合し、被告製品も原告製品も販売代理店を介した販売を行っている。したがって、被告製品に接した需要者は、当該製品が原告製品以外の空調ユニットシステムであると想起することは不可能であり、被告製品を原告製品であると誤認、混同する。

(被告の反論)

被告は、被告製品を、ミキシング分配チャンバーと表示して販売しており、原告製品と同様の商品名の表示は一切行っていない。また、被告製品等の空調システムの発注については、設計会社、施工会社とメーカーとが、機能、価額、性能等につき綿密な打ち合わせを行っており、店頭販売するような商品とは異なり、取引の誤認を生ずるようなことはない。

また、被告は、冷温風ミキシング装置を三年以上前より製造、販売しており、この部分と他社も広く販売している分配チャンバー及びフレキシブルダクトとを合体させたものであり、被告製品は原告製品の形態の模倣ではない。

3  不正競争防止法二条一項三号所定の「最初に販売された日」はいつか。

(原告の主張)

被告が模倣したのは、「FASU」ではなく原告製品である。原告製品は、<1>チャンバーが「FASU」よりもミキシングボックスの分だけ長く、<2>チャンバーの背面にVAVとCAVが接続されている、という点で、「FASU」と形態が異なる。したがって、同法所定の「最初に販売された日」は、原告製品が最初に販売された日である平成九年三月と解すべきである。

(被告の反論)

原告が主張する模倣行為の対象とされる形態とは、チャンバーの直方体性と複数のダクトが折れ曲がっているということであり、これは、原告が平成四年三月より販売している「FASU」の形態の特徴そのものである。したがって、同法所定の「最初に販売された日」は、「FASU」が最初に販売された日である平成四年三月と解すべきである。なお、原告製品は「FASU」よりもミキシングチャンバー部分が長くなっており、VAVとCAVの接続口がつけられているが、これは「FASU」システムとVAV、CAVシステムを一体化するという設計会社の指示によるものであり、両者を一体化したことにより発生した機能上当然の結果であり、商品の機能による通常の形態である。

4  原告製品の形態は、同種の商品が通常有する形態といえるか。

(被告の主張)

前記1(被告の反論)のとおり、原告製品の形態は、設計会社等からの仕様、施工図面に基づいたものである。また、原告製品の形態は、同種の商品が通常有する形態である。

(原告の反論)

原告製品ないしは「FASU」の形態は、原告製品ないしは「FASU」の技術的構成には由来するが、チャンバーの形状、ダクト開口部の取り付け位置、全体の形状は、必然的な形態ではない。したがって、原告製品の形態は、商品が通常有する形態ではない。

5  賠償すべき損害額はいくらか。

(原告の主張)

被告は、被告製品合計六三六セットを合計一億〇五五〇万円で販売した。被告製品一セット当たりの製造原価は一二万七九〇二円(合計八一三四万五六七二円)であり、これを控除すると、被告が被告製品を販売したことによって得た利益は二四一五万四三二八円となる。また、本件訴訟のために原告が要した弁護士費用は、二四一万五四三二円を下らない。

よって、被告の不正競争行為により原告が被った損害は、合計二六五六万九七六〇円を下らない。

(被告の反論)

原告の主張は争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1(商品表示性及び周知性)について

1  前記第二、一の事実、証拠(甲一、四、一四ないし八四(枝番号は省略する。以下同様とする。)、八五ないし八七、九六、一二九、乙四)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 原告製品の形態上の特徴は、以下のとおりである。

<1> 直方体の箱状のミキシングチャンバーの背面に、VAVとCAVとがそれぞれ接続される二つの開口部が並行状態に設けられていること

<2> ミキシングチャンバーのVAV及びCAV開口部に、VAVとCAVがそれぞれ接続されていること

<3> ミキシングチャンバーの正面に、フレキシブルダクトを接続することが可能な開口部が設けられていること(なお、フレキシブルダクトの接続が不必要であるときは蓋で覆われている。)

<4> ミキシングチャンバーの左側面及び右側面に、フレキシブルダクトを接続する開口部が合計六個、八個又は一〇個設けられていること

<5> フレキシブルダクトは、折り曲げ状態にしたがって、穏やかに曲がった形状であること

<6> 原告製品の全体形状は、ミキシングチャンバーの左側面及び右側面から、複数のフレキシブルダクトが、ミキシングチャンバーの中心点より左及び右方向の外側に向かって穏やかに曲がった状態で広がっており、蟹の形状をしていること

(二) 原告製品は、設置されるまでの間は、フレキシブルダクトをミキシングチャンバー内に収納させた状態で運搬される。原告製品においては、当該設置個所における吹出口の位置関係等により、接続させるフレキシブルダクトの本数が決まるため、原告製品の設置前においては、必ずしも設置後の完成形状が確定しない。また、原告製品は設置後、天井裏に隠れてしまい、通常人目に触れることはない。

(三) 原告は、平成四年三月に「FASU」の販売を開始し、平成五年からは業界誌等に積極的に宣伝広告して、その販売数を伸ばし、「FASU」については日本経済新聞等にも取り上げられたことがある。しかし、右新聞記事等によると、「FASU」が記事に取り上げられたのは、その機能、効用等が注目されたからであって、その形態が特殊であるからではない。

また、原、被告以外の第三者も、直方体状の箱状のチャンバーの左右に、穏やかに曲がった形状のフレキシブルダクトが合計六本程度接続された空調製品を販売している。

2  右認定した事実を基礎として、原告商品の形態が商品表示性を有するか、また、その形態が周知であるかの点について検討する。

<1>原告製品を構成する個々の装置、すなわち、ミキシングチャンバー、VAV、CAV及びフレキシブルダクトの形状は、いずれも、直方体や円筒状であって、特異なものとはいえないこと、<2>ミキシングチャンバーの形態については、風量バランス調整を行うため、ある程度の容量を必要とすること、また、ミキシング構造を設けたため、縦長にせざるを得ないこと等に照らすと、チャンバーに要求される機能を充たすために通常選択される形状であるといえること、<3>フレキシブルダクトの形状については、空調製品の設置場所の物理的な制約を受けることなくダクトを天井裏に配置するため折り曲げ可能にしたことに照らすと、ダクトに要求される機能を充たすために通常選択される形状であるといえること(なお、フレキシブルな構造は、ダクトの一般的な構造の一つであることは争いがない。)、<4>また、原告製品は、ミキシングチャンバーとフレキシブルダクトがユニット化され、単に接続するだけで空調製品が完成するようにした点で工夫がされているが、形態上の特異性があるとはいえないこと、<5>さらに、ミキシングチャンバーに接続されるダクトの本数は、設置場所の具体的状況、吹出口との位置関係により左右されるものであって、あらかじめ自由に選択できるものとはいえないこと、原、被告以外の第三者も、直方体状の箱状のチャンバーの左右に、穏やかに曲がった形状のフレキシブルダクトが合計六本程度接続された空調製品を販売していること等の事情を総合考慮すると、原告製品の形態に、原告商品を表示識別する機能があると解することはできず、また、原告製品の形態上の特徴が需要者の間に周知であると解することもできない。

二  争点2(混同)について

原、被告製品のような製品は、店頭で並べて販売されることはなく、主として、ビルの建設工事を請け負った設計会社、建設会社、又は空調設備会社が、空調製品の製造販売業者に対して、カタログ、パンフレット等から、販売会社や製品の機能等を詳細に検討した上で発注される商品である。このような、原、被告製品の取引の実情からすると、被告製品の形態的な特徴から、原告製品と出所等の混同誤認を招く事態を想定することはできない。

以上のとおり、右一、二の理由から、不正競争防止法二条一項一号に基づく原告の主張は理由がない。

三  争点3(最初に販売された日)について

1  前掲各証拠及び前提となる事実によれば、以下のとおりの事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 前記のとおり、原告製品の形態上の特徴は、直方体の箱状のミキシングチャンバーの背面にVAV、CAVが接続され、左側面及び右側面に、フレキシブルダクトの開口部が設けられているという点、ミキシングチャンバーの左側面及び右側面から、複数のフレキシブルダクトが、ミキシングチャンバーの中心点より左及び右方向の外側に向かって穏やかに曲がった状態で広がっており、蟹の形状をしているという点であり、他方、「FASU」の形態の特徴は、直方体の箱状のチャンバーの左側面及び右側面から、複数のフレキシブルダクトが、チャンバーの中心点より左及び右方向の外側に向かって穏やかに曲がった状態で広がっており、蟹の形状をしているという点である。

(二) 原告製品は、原告が平成四年三月ころに、商品名を「FASU」として、販売を開始した空気調整装置に、温度コントロール機能を具備させるため、<1>「FASU」のチャンバーの内部に空気を混合させるためのミキシング構造を設け、<2>「FASU」のチャンバーにVAVとCAVを接続し、かつ、単一にユニット化した商品である。このような経緯から、原告製品は、先行商品である「FASU」の形態上の特徴をおおむね備えている。原告製品は、「FASU」と比較すると、「FASU」にミキシング構造を設け、VAV、CAVを接続したものであるため、主に、チャンバーにミキシング構造を設けた分だけ、チャンバーがより縦長になっている点、及びチャンバーの背面にVAVとCAVが接続されている点において、形状が若干異なる。

2  右認定した事実を基礎に、不正競争防止法二条一項三号所定の「最初に販売された日」について検討する。

原告製品は、「FASU」にミキシングボックスとVAV、CAVを一体化した製品であり、「FASU」と原告製品との形態の差異は、チャンバーが若干縦長になった点とVAV、CAVが接続された点のみにあり、原告製品は、先行商品である「FASU」に、極く僅かな形態上の変更を加えたものに過ぎないものというべきである。このような場合、同法所定の「最初に販売された日」は、原告商品の先行商品であり、かつ、基本的な形態のほぼすべてが具備されている「FASU」が、最初に販売された日である平成四年三月と解するのが相当である。

そうすると、被告が被告製品を製造、販売したのは、平成九年八月以降であるから、右製造、販売行為は、不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争行為には該当しない。

四  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

原告物件目録1(6本)

<省略>

原告物件目録2(8本)

<省略>

原告物件目録3(10本)

<省略>

原告物件目録4(6本)

<省略>

原告物件目録5(8本)

<省略>

原告物件目録6(10本)

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被告物件目録1(6本)

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被告物件目録2(8本)

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被告物件目録3(10本)

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被告物件目録4(6本)

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被告物件目録5(8本)

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被告物件目録6(10本)

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